3. 持続可能な発展へのみちすじ

「持続可能な発展」って、どうしたらわかるの?

さて、みなさんは、「持続可能な発展」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

この考え方が広く知られるようになったのは1987年の「かんきょうと開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」です。このとき、「持続可能な発展」とは「現在のニーズを満たすと同時に、将来世代が自身のニーズを満たす能力も損なうことのない発展」だと説明されました。かんたんにいうと、「今だけではなく、将来の人たちも、ずっと豊かでいられるような発展」です。とてもすてきな考え方ですね。

しかし、具体的にはどういうことなのでしょう。ある国が「持続可能な発展」をしていると、どうすればわかるのでしょうか。
それを知るためには、国の豊かさを正しく「はかる」ことが必要です。

ダスグプタ教授は「持続可能な発展」という言葉がいっぱんてきになるずっと前から、その先がけとなる研究をしていました。「世代間の公平性」という考え方がその根底にあります。今の世代だけでなく、将来の世代まで豊かでいられるために、どうすれば十分なものを将来に残すことができるのか、ということをダスグプタ教授は研究してきたのです。

1968年、ケンブリッジ大学の大学院を卒業するときには、フランク・ラムゼイという人が残した、将来のためにどのくらいをちょちくに回すべきかを明らかにしようとした「最適貯蓄の理論(ラムゼイモデル)」という考え方をもとにして、それを実際に使えるものにするための研究を行っています。また、オイルショックが起こった翌年の1974年には、「限りある石油や石炭を将来も使い続けるためには今、どれだけ消費してよいのか」ということを研究しました。さらに、1974年には、てつがくしゃジョン・ロールズの考え方を「世代間の公平性」にあてはめることも行いました。
そして、2000年代に入り、「持続可能な発展」をどう判断するかという、難しい問題にチャレンジすることになりました。

たとえば、森の木を切って、家を建てることを想像してみましょう。木を切れば切るほど、たくさんの家が建てられます。でももし、木を切りすぎて、森に木がなくなってしまったら…?家を建てることはできなくなってしまいます。

GDP(国内総生産)という数字を聞いたことがあるでしょうか。一年間に、ある国の中で、どれだけのものが作られ、経済的な取引があったかを表すもので、よくニュースにも出てくる、みんながとても気にする数字です。しかし、GDPでは、先ほどのたとえを使えば「どれだけの家が建てられたか」しかわかりません。減ってしまった木のことは、計算に入っていないのです。

ダスグプタ教授は、そうではなくて、「森の木は、今どれくらいあるのか。それは昔と比べて増えたのか、減ったのか。」をはかるべきだと思いました。
何(家)をどれだけ作って売り買いされたか」ではなく、「何(森の木)をどれだけ持っているか」をはからなければ、将来のことまで考えた「本当の豊かさ」をはかることはできないと思ったのです。

「何をどれだけ持っているか」は、将来の人たちが働いたり生活したりするための「かて」になるからです。森の木を切りつくしてしまったら、将来の人たちは家を建てられませんね。でも、森の木が減りすぎていないかどうか今から気をつけていれば、将来の人たちにも豊かな森を残すことができるかもしれません。

「富」にふくまれるもの

では、「持っているもの」とはなんでしょうか。これを「」とよぶことにしましょう。
「富」には、いろいろなものが入ります。人間の作った道路や建物、それに、働くための技能や、健康でいることのような、一人ひとりが持つ、目に見えない豊かさも入るのです。そして…もうおわかりかもしれませんが、「自然」を忘れてはいけません。

こういった富をはかるためには、ひとつひとつの富を構成するものの「価値」を決めなくてはいけません。自然資源は、人間が作ったものとちがい、値段をつけるのがとても難しいものです。また、自然にあるものは動くので、だれのものだということもなかなかできません。そのため、多くの場合、自然資源はその本当の価値よりずっと安いか、ただ同然のようにあつかわれてきました。人間が自然資源を使いすぎていたのには、こうした理由もあるのです。

でも、ダスグプタ教授は、自然を富の中に入れるために、きちんと価値をつけなければいけないと考えました。そこでダスグプタ教授は、森や川や土地…そういったものに、たとえばこれくらいの広さならいくらというように、価値をつけていきました。

包括的な富

そうして、たとえばある国の、すべての富を足し合わせて出した数字を「ほうかつてきな富の指標」とよぶことにしました。「包括的」とは「すべてをふくんだ」という意味です。この「包括的な富の指標」をその国の人口で割った数字(一人あたりの包括的な富の指標)が増えているか減っているかこそが、その国が「持続可能な発展」をしているかどうかを判断するかぎだと、ダスグプタ教授は考えたのです。

ダスグプタ教授はまた、「ほうかつてきな富」だけではなく、それを使う人間どうしの決まりごとである「制度」も大切だと言っています。たとえば、水をきちんと管理できるかどうかで、水資源ができるかどうかが変わってくるのです。

「制度」はいろいろなところにあります。あなたの家の中にも、小さな農村にも、大きな都市にも、そして国にも…そして「制度」は人間同士のしんらい関係によって成り立っています。ダスグプタ教授は、特に、国の政府がよい「制度」を持っているかどうかで、その国の豊かさは大きく左右されると言います。

国の豊かさの土台(生産的ばん

同じくらいの面積の森林を持っている国が二つあったとしても、独裁ではなく、国民の声をきちんと聞く政府の方が、森林を大切に使うかもしれません。
十分な富と、それをうまく使うための制度、それが合わさって、国の豊かさの「土台」となるのです。

この新しい考え方「ほうかつてきな富の指標」を使って世界の国々の「豊かさ」をはかった結果報告が、2012年に開かれた「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」にて、発表されました。ダスグプタ教授は、この報告書の作成を学問的に指導して、その内容にとても大きなえいきょうをあたえました。いざ、「包括的な富の指標」を使ってみると、なんと、相当な数の国で、一人あたりの「包括的な富」は減っているということがわかったのです。

これからの世界

ほうかつてきな富の指標」には課題も残されています。自然資源の「価値」をはかるのが今でも難しく、「富」にまだ、きちんと入っていない自然資源もあるのです。でも、何も入れないよりはずっとよい、それを考えることが第一歩なのだとダスグプタ教授は言っています。

これからの世界

残すことを考えないで、ただ使うばかりでは、いつか豊かさは失われてしまう…「ほうかつてきな富の指標」でわかったことは、世界に衝撃をあたえました。
ダスグプタ教授のふるさとであるインドでは、国の経済やかんきょうを見直していくために、この指標を参考にした「グリーン会計」を導入することにしました。ダスグプタ教授はそれの手助けをしたのですが、他の国でも、もっとこういうことをしたらいいのにと思っています。この指標は、国の方針を見直すのに、とても役に立つはずなのです。 この研究には、世界中の学者が関心を持ち、今でも研究が深められ続けています。

スウェーデン王立科学アカデミーの会議に出席したときの写真(1993)

スウェーデン王立科学アカデミーの会議に出席したときの写真(1993)。前から2列目の右はしがダスグプタ教授。そのすぐ前にいる白いひげの人は2009年にブループラネット賞を受賞したざわひろふみ教授。ダスグプタ教授とも親交がありました。

それに経済を考えるとき、自然は今でもわきに追いやられがちです。経済学とかんきょう学は、もっとかべを取りはらうべきだと、ダスグプタ教授は考えています。ただ、昔よりは、環境学者と経済学者が交流をするようになっているそうです。

そして、ダスグプタ教授は言っています。「未来はあなた次第です。」
子どもたちにもっと「自然」を知ってほしい、きれいなだけではない、人間を助けてくれる自然のしくみを、もっと理解してほしい、といいます。

あなたがこれから、身の回りの自然にふれたとき、少しでもこのことを思い出してくれたなら…そこには、本当に豊かな未来が待っているのかもしれません。