2. れんする生態系

栄養カスケード

ノートルダム大学で最初の仕事をすることになりましたが、カーペンターさんはウィスコンシン州を完全にはなれたわけではありませんでした。ノートルダム大学で湖沼の研究を続けながら、研究のほとんどをウィスコンシン州にある同大学のフィールドで行っていました。かれは研究のしょうてんを植物と動物に移し、しょくもつもうの構造が湖沼の生態系をどのようにコントロールしているかを研究し始めました。

食物網というのは、生態系の中での生物の「食う・食われる」の関係のことです。同じように生態系における「食う・食われる」の関係を示すものに食物連鎖という考え方がありますが、食物連鎖が関係を直線的なつながりで示すのとは異なり、食物網では複数種のえさを食べ、また複数種に食べられるという実際の自然界でのつながりをこうりょして、食う・食われるの関係を入り乱れたあみのように表します。

食物網のイメージ図 Image by brgfx on Freepik

食物網のイメージ図
Image by brgfx on Freepik

1981年頃には、湖沼生態系に関心を持つ2人の科学者、ジェームズ・ホジソン教授とジェームズ・キッチェル教授と一緒に、「栄養カスケード(栄養の滝)プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトの目的は、湖全体の食物網に手を加え、その成り立ちを理解することでした。

例えば、このプロジェクトの初期に行った実験では、3つの湖を使って、大きな魚や小さな魚の数をじん的に操作することで、湖の食物網で上位にある大きな魚の割合を意図的に増やした湖と減らした湖をかくしました。すると不思議なことに、大きな魚を増やすと、大きな魚は食べない植物プランクトンの数が減ることがわかりました。なぜこのようなことが起こったのでしょうか。

大きな魚は、自分より小さな魚を食べます。したがって、大きな魚を増やせば、湖の中の小さな魚の数が減ります。小さな魚が減ると、小さな魚の餌である動物プランクトンの数が増えますが、動物プランクトンの数が増えることでその餌である植物プランクトンの数が減ります。このように、食物網で上位の大きな魚の数の変化は、それらが直接食べない下位の生物の数にまで影響していき、その様子は上から下に伝わることから、この現象のことを栄養カスケード、つまり栄養のたきと呼んでいるのです。

1978年、ポール湖、ピーター湖、チューズデー湖

ポール湖、ピーター湖、チューズデー湖
1984年、ピーター湖のラージマウスバスのほとんどがチューズデー湖に移され、1985年、チューズデー湖のミノーのほとんどがピーター湖に移された。ポール湖は操作していない基準の湖。

カーペンターさんが行った湖全体での栄養カスケードの実験は、湖の管理方法の改善に直結するものでした。そのためウィスコンシン州は、栄養カスケードが魚類管理と水質管理の問題を同時に解決できると考え、メンドータ湖での食物網に関する新たな実験に資金を提供しました。

この実験がきっかけとなり、ウィスコンシン大学マディソン校にじゅんきょうじゅとしてもどることになったカーペンターさんは、その後もさらに、漁場を改良するための水生植物管理、大型・小型魚類の数を調整するための人為的操作、有害な外来種を除去し本来の食物網を回復させるための湖を使った管理実験などを行いました。実験はマディソンのメンドータ湖で行われたものですが、これらの手法は、他の湖でも活用できるものです。

また、1997-2011年には、キッチェル教授などの研究者とともに、湖の食物網に対する水生生物や陸生生物の影響を検討し、食物網の崩壊や再生の予兆について調べました。

3. 過剰な栄養

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スティーブン・カーペンター教授

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