2. 国民総幸福量(GNH)

国民総幸福量とは

ブータンの第4代国王陛下が国民総幸福量(GNH)の概念を提唱し始めたのは1970年代でした。当時、世界では国の豊かさを表す指標として国民総生産(GNP: Gross National Product )という国の経済力を表す指標が主に使われていましたが、若き国王は「私たちにとって、国民総生産(GNP: Gross National Product)より大切なのは、国民総幸福量(GNH)である。」とおっしゃったと言われています。陛下はGNHの概念を通じて、国家の究極の目標は国民の幸福である、という考えを打ち出したのです。

GNHでは、国民の幸福とは人間の自然な本能であり、平和で持続可能な環境において精神的にも物理的にも満たされることで達成できるものとしています。経済成長を否定しているわけではありません。経済発展はあくまで国民の幸せという究極の目標を達成するための方法のひとつに過ぎず、やみくもに経済成長をそくしんするのではなく、開発と環境保全のバランスをとり、豊かな心を大切にする経済成長が重要ということです。なお、2011年の東日本だいしんさいの後に来日されたジグメ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク第5代国王陛下(第4代国王の長男)は、「GNHは、経済成長を追求する人々のニーズと、優しさ、平等、人間性などの人間の基本的な価値観との間のけ橋として機能します。」と述べられましたが、これはGNHの考え方をわかりやすく示したものであるといえます。

GNHの4つの柱と9領域

ではどうすれば人々を幸福にできるのでしょうか。GNHが世界に広く知られているのは、GNHが単なるスローガンではなく、ブータンの政策にしっかり組みまれて発展してきたからです。2008年にこうされたブータン憲法には、「政府の役割は、GNHを追求できるような諸条件の整備に努めることにある。」と明記されています。ブータンでは、国家の究極の目標である国民の幸福の実現のために、すべての政策決定がGNHの考え方に従って行われなければならないのです。

人々が幸せを追求できる環境を作り出すために、GNHの4つの柱が定められています。

GNHの4つの柱 主な内容
持続可能で公平な社会経済の開発 すべての国民・地域のおんけいが行きわたる経済発展や社会発展。持続可能な農業、しょう教育、道路建設・管理などのインフラ整備。
環境の保護 美しい自然環境は、それ自身が宝物で、人々がよりよい生活をおくるために必要不可欠なものであることを認識すること。森林保全の数値目標とばっさいのライセンス制度、たばこ製品の全国的な禁止など。
文化の保護としんこう ブータン固有の伝統文化の継承を図ること。公的れいの際に民族衣装着用をしょうれいするドレスコード制度、伝統建築様式の規定、地域社会と家族のきずなの奨励など。
良い統治 人々の尊厳を重視し、開かれた住民参加型のとうめい性の高い政治運営を行うこと。民主的選挙、地方分権など。

GNHの4つの柱のもとに、さらに教育や健康、生活水準や時間の使い方など9つの領域を設け、幸福のあり方を細分化しています。

GNHの9領域
1. 生活水準 6. 地域の活力
2. 健康 7. 時間の使い方
3. 教育 8. 心理的な幸福
4. 環境 9. 良い統治
5. 文化のだんりょく性と振興

こうしたGNHの考え方は、ブータンの国民の幸福度を評価する指標としても使われています。王立ブータンGNH研究所が中心となり、5年に一度の国勢調査(GNH調査)によって国民の幸福度を調査しています。国民を対象として、自分たちを幸せだと考えているかどうか、しょうさいな質問調査を行うのです。そして政府は、調査の結果をもとに、国民が望む幸福を具体的に政策や開発計画に反映させています。2015年の調査では9割以上の国民が程度にはばはあるものの「幸せである」と回答したことがわかっています。

提供:ブータン政府観光局
提供:ブータン政府観光局

提供:ブータン政府観光局

3. ブータンの環境政策と気候変動の影響

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ジグミ・シンゲ・ワンチュク第4代ブータン王国国王陛下

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