3. ブータンの環境政策と気候変動の影響

GNHの4つの柱のひとつに「環境の保護」がありますが、もともとブータンの人々は豊かな自然を大切にしたいという考え方を持っていました。そんなブータンでは、自然と調和した豊かな人間社会の実現を目指すというGNHの考えに基づき、早くから環境の保護に積極的に取り組んできました。それは、世界的に見ても時代のはるか先を行くものでした。

ブータンの環境政策では、発展と環境の保護のバランスを維持するために、持続可能で慎重な開発を進めています。しょうちょう的な取組が森林保全です。第4代国王陛下は、短期的な利益のために豊かな森林資源を開発することをよしとせず、将来の世代のために手つかずの自然環境を保護することにじんりょくされました。2008年に施行されたブータン憲法では、国土の60%以上を森林として保全しなければならないと定められています。現在、ブータンではその水準をはるかにえる国土の70%以上が森林におおわれ、豊かな生物多様性を育んでいます。

提供:ブータン政府観光局
提供:ブータン政府観光局

提供:ブータン政府観光局

これらの森林は、各地域にかけがえのない生態系サービスを提供するだけでなく、水力発電を支える河川の重要な水源となっています。ブータンは水力発電によって得た電力を国内で消費するだけでなくりんごくのインドに輸出しており、水力発電による収入はブータンの国の収入の40%以上をめています。

また、二酸化炭素などの温室効果ガスは地球温暖化の原因となりますが、ブータンの豊かな森林は大気から多くの二酸化炭素を吸収しています。加えて、ブータンでは経済成長のスピードよりも内容を重視し、二酸化炭素のはいしゅつ量を極めて低くおさえてきました。今日、世界では二酸化炭素の排出量と吸収量を等しくし、二酸化炭素の排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指していますが、ブータンは人間活動による二酸化炭素の排出量よりも森林などによる二酸化炭素量の吸収量のほうが多い「カーボンネガティブ」を達成している数少ない国のひとつであり、今後もカーボンネガティブを保ち続けることを国際社会に表明しています。

しかし、地球温暖化による気候変動の影響は地球規模で私たち全員に影響をおよぼすものであり、環境保全に力を入れてきたブータンにもその影響の波はし寄せています。

ヒマラヤ山脈は、北極、南極に次ぐ大きさの氷河を要し「第3の極」とも呼ばれています。地球温暖化はひょうしょうほうかいや氷河のゆうかいを引き起こし、南極や北極では海面じょうしょうや海流への悪影響が問題となっています。ヒマラヤ山脈に囲まれたブータンも地球温暖化による気候変動のきょうに直面しています。過去50年間で永久雪のラインは100メートル上昇し、氷河は年間10〜60メートル後退していると考えられています。

最大の脅威は氷河湖の崩壊によって引き起こされるようになるひんぱんこうずいと土砂くずれです。中国、ネパールなどの、同じくヒマラヤ山脈に接するきんりん諸国では、すでに大きながいが起きています。ブータンには2,600以上の氷河湖がありますが、そのうち約25はせんざい的に崩壊の危険性があります。また、地球温暖化はモンスーンの降雨量の増加にもつながり、それによって大規模な土砂崩れが発生することもねんされています。

4. 世界に広がるGNHの概念

menu

ジグミ・シンゲ・ワンチュク第4代ブータン王国国王陛下

English